グラフェンシートキリガミ
「切り紙あそび」というものをご存知だろうか。これは、紙にいくつかの切り込みを入れてさまざまな形を作り出すもので、日本の伝統的工芸でもある。英語でも、そのままKirigamiと言う。私の研究室では、これにヒントを得て、最先端の素材、とりわけ今注目を集めている炭素素材のグラフェンシートのナノ構造設計に挑戦している。グラフェンシートは、炭素原子の結合からなる蜂の巣のような六角形の格子構造をもつナノ炭素材料のひとつで、現在知られている素材の中で最も薄くて強い物質である。電気や熱の伝導率も非常に大きく、ナノ炭素材料を基にした材料は自動車や航空機などへの応用も期待されるなど、世界中の研究者がその可能性を模索している。私は切り紙や折り紙の発想を、2次元のグラフェンシートから3次元構造への創成技術に応用すれば、強度と柔軟性・新機能を兼ね備えた構造を実現できると考え、力学理論解析とさまざまなコンピュータシミュレーションを行っている。この研究を行うことで、日本の伝統工芸と先端技術が結びつき、誰も未だ見たことのない世界を実現できるのではないだろうか。とてもワクワクするプロジェクトである。
格子欠陥を考慮したナノ積層構造を有するグラファイトのキンク変形解析
6員環で構成されるナノ炭素材料であるグラフェンは優れた機械的特性を有しており、グラフェンベースの装置の製造開発に必要不可欠である。用いた製品を製造する上で、グラフェン結晶内に存在する格子欠陥によるグラフェン特性への影響を考慮することは重要である。グラフェン結晶内に格子欠陥のひとつである5員環と7員環の対を基本構造とする5-7欠陥を配置すると、格子欠陥の相互作用により欠陥配置箇所で自発的な曲面が形成される。さらに、複数個の5-7欠陥をグラフェン結晶内の同一バーガースベクトル線上に配置すると、結晶構造内にすべりが発生し転位が形成される。この現象を利用することで圧縮変形下での座屈モードや褶曲の形態を制御できる可能性がある。積層グラフェンの中に存在する一対の5-7欠陥を独立した転位の格子欠陥とみなし、転位論を用いて格子欠陥を配置した積層グラフェンの面外変形制御のための基礎的知見を獲得するために、様々に制御された格子欠陥配置に対して圧縮力下の分子動力学変形解析を行う。
格子欠陥を有するナノ炭素材料のエネルギー地形と構造安定性に関する研究
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube; CNT) やグラフェンシート(Graphene Sheet; GS) などのナノカーボン材料は、6員環からなる低次元構造を有している。その巻き方によって電気的な特性や工学特性や力学特性などが異なることが知られている。その格子欠陥は生成過程に含まれるだけでなく、高温では完全格子からの局所的な結合の組み換えによりStone-Wales(SW)欠陥と呼ばれる欠陥が生成され、そこからpentagon-heptagon欠陥(5-7欠陥)対が生成されることが知られている。このような欠陥は、ナノカーボン形成段階においては成長過程に大きな影響を及ぼし、曲面の3次元的な形状と密接に関わっている、また、最近、欠陥の密度や配置が面外変形による応力低減、遮閉やブリッジングによる鋭利なき裂先端の応力集中の緩和などによって、破壊靭性の向上に寄与していることが明らかになってきた。本研究では、格子力学(Peierls-Nabarro)モデルを用いて、CNTsの5-7欠陥対の安定性や配置間の最小エネルギー経路を考察する。その結果、SW欠陥、および、それが分離して生成された5-7欠陥対の局所安定配置とそのエネルギーを評価する。
ダイヤモンドナノスレッドを素線とする組紐カーボンファイバー
ダイヤモンドナノスレッド(Diamond Nanothreads: DNT) は、2014年にペンシルベニア州立大学のTomas C. Fitzgibbons 氏らにより発見された新しい材料である。DNT は、ダイヤモンドの構造でかつカーボンナノチューブの様に1次元的な材料であるため、高強度であることや新たな機能が注目を集めている。また、「組み紐」という、複数の糸を編み込むことで綺麗な太くて強い紐を作るという芸術品がある。現在では、伝統的な固有の編み方で作り続けているだけでなく、その技術はミサンガや服飾等に広く用いられている。DNTという最先端のナノ材料と組み紐という日本の伝統文化を融合させることにより、シミュレーションで特性を明らかにすることが、この研究の本質である。