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JABEE認定プログラム
 2. 学習・教育到達目標
 先に掲げた「育成しようとする自立した技術者像」の技術者になりうる修了生を輩出し,学科の「教育理念・目的」を達成するには,「育成しようとする自立した技術者像」や「教育理念・目的」に基づいたより具体的な「学習・教育到達目標」が設定されていなければなりません.機械工学科のJABEE対応教育プログラムでは,以下の(A)〜(H)から成る「学習・教育到達目標」が設定されています.
 この「学習・教育到達目標」はJABEE対応教育プログラムの根幹であり,私たち教員が教育すべき目標であるとともに,皆さんが学習によって卒業時に身につけるべき目標です.したがって,「学習・教育到達目標」の達成に係わる授業科目のシラバス(授業計画書)には,その授業科目での(A)〜(H)の「学習・教育到達目標」に対する寄与度が示されています.

(A)
資源,エネルギー,環境,文化,経済,政治などを地球的な視点でとらえ,「環境と調和した快適な社会生活」とは何かについて考える能力
(B)
技術が自然や社会におよぼす影響を理解し,技術と技術者が社会で果たすべき役割と責任を自覚する能力
(C)
数学(線形代数,微分積分学,確率・統計),物理(力学・電磁気学)および情報技術に関する基礎知識を有し,それらを機械工学に関連する専門技術分野に応用できる能力
(D)
機械工学の主要分野(材料と構造,運動と振動,エネルギーと流れ,情報と計測・制御,設計と生産・管理,機械とシステム)に関する基礎知識を有し,それらを諸問題の設定・解決に応用できる能力
(E)
環境と調和したモノづくりの構想・設計・実行・評価を行う能力
(F)
「「環境と調和した快適な社会生活」を実現するための課題を設定し,その解決のために実験等を自主的かつ継続的に計画・遂行し,その結果を総合的に評価・論述,発表・討議する能力
(G)
日本語でコミュニケーションする能力及び機械工学に関する内容を英語でコミュニケーションする基礎能力
(H)
自己と他者が適切に協働しグループとしての目標を達成する能力

 この「学習・教育到達目標」の設定にあたっては,本学科の「育成しようとする自立した技術者像」や「教育理念・目的」のみならず,JABEE(日本技術者教育認定機構)が定める学習・教育到達目標に関する認定基準,皆さんたちの先輩からの意見,さらには企業の人たちからの意見も反映されています.以下,本学科の「育成しようとする自立した技術者像」と「教育理念・目的」以外の事柄について簡単に記述します.

(1) JABEE(日本技術者教育認定機構)が定める学習・教育到達目標に関する認定基準
 JABEE(日本技術者教育認定機構)とは,Japan Accreditation Board for Engineering Education の略称です.JABEEは,技術系学協会(機械及び機械関連分野の場合は日本機械学会)と密接に連携して技術者教育プログラム(カリキュラムのみならず,教育方法,教育設備・環境,教員,教育点検・評価・改善等を含む入学から卒業までの全教育システムを指します)の審査・認定を行う非政府団体で,1999年11月19日に設立されました.
 JABEE設立の目的は,「統一的基準に基づいて高等教育機関における技術者教育プログラムの認定を行い,その国際的な同等性を確保するとともに,技術者教育の向上と国際的に通用する技術者の育成を通じて社会と産業の発展に寄与する」ことにあります.JABEEが定めている「学習・教育到達目標」に関する認定基準は以下の@〜Aであり,先に掲げた機械工学科の「学習・教育到達目標」(A)〜(H)にはこれらの基準が考慮されています.

 @
プログラムが育成しようとする自立した技術者像が定められていること.この技術者像は,プログラムの伝統,資源及び修了生の活躍分野等が考慮されたものであり,社会の要求や学生の要望にも配慮されたものであること.さらに,その技術者像が広く学内外に公開され,また,当該プログラムに関わる教員及び学生に周知されていること.
 A
プログラムが育成しようとする自立した技術者像に照らして,プログラム修了時点の修了生が確実に身につけておくべき知識・能力として学習・教育到達目標が設定されていること.この学習・教育到達目標は,下記の(a)〜(i)の各内容を具体化したものであり,かつ,その水準も含めて設定されていること.さらに,この学習・教育到達目標が広く学内外に公開され,また,当該プログラムに関わる教員及び学生に周知されていること.なお,学習・教育到達目標を設定する際には,(a)〜(i)に関して個別基準に定める事項が考慮されていること.
(a) 地球的視点から多面的に物事を考える能力とその素養
(b) 技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、及び技術者が社会に対して負っている責任に関する理解
(c) 数学及び自然科学に関する知識とそれらを応用する能力
(d) 当該分野において必要とされる専門的知識とそれらを応用する能力
(e) 種々の科学、技術及び情報を活用して社会の要求を解決するためのデザイン能力
(f) 論理的な記述力、口頭発表力、討議等のコミュニケーション能力
(g) 自主的、継続的に学習する能力
(h) 与えられた制約の下で計画的に仕事を進め、まとめる能力
(i) チームで仕事をするための能力
(2) 卒業生からの意見
 「学習・教育到達目標」の設定にあたって平成13年12月8日に卒業生へのアンケートを実施しました.ここでは,その結果のいくつかを示します.

最初は,「学習・教育到達目標」の(E),すなわち「環境と調和したモノづくりの構想・設計・実行・価を行う能力」に対応した次の質問と,それに対する意見です.

(質問)
 本学科では新しい学習・教育到達目標の一つに「モノづくりの分かる学生の輩出」をかかげ,そのための以下のような実学教育カリキュラムを検討しています.すなわち,@ある設定課題のもとに自分達でまず設計し,Aそれを実際に製作し,さらにB製作物の問題点を見つけ出し,C見つけ出した問題点をもとに設計変更を行い,D再度製作し問題点の解決を試みる.
このような実学教育カリキュラムについて,皆様方のご意見をお聞かせ下さい.

(意見)

  • 「物づくりのわかる学生の輩出」を教育目標の一つにあげるのはすばらしい.(提案されている)1〜5のプロセスは,品質保証で言うところの Plan, Do, Check, Action サイクルに相当し,今後の継続的改善に繋がると思います.基本となる目標は「問題抽出・解決能力のある学生の育成」として頂くことを希望します.
  • 設定課題をどのようにするかが重要だと思うが,(提案の)考え方は非常に良い.
  • 目標は非常に理解できますが,問題が一つあります.課題設定が最も重要です.従って,1. 設定課題の立案・検討,2. 具体的な設計にした方がよいと考えます.
  • (提案されているカリキュラムの)2の製作ステップの苦労を体感させ,失敗をして世に出てきて欲しい.
  • 考えて創造する力が育成できるため,(提案されている)カリキュラムは良いと思う.製作した後で,何を評価するかを考え,自分達でデータを取り評価するところまで入れたらどうでしょう.
  • 実物の問題点がうまく発生してくれると良いのですが.
  • カリキュラムでは度外視してよいが,コストを把握しておくことが大事.
  • 大変すばらしいカリキュラムである.より行動的な人材を輩出していただきたい.
  • (提案されている実学教育カリキュラムを)是非実現していただきたい.品質,コスト,納期,安全も課題設定に考慮してください.また,目標を立てる場合,必ず後で簡単に評価ができるようなシステムを作ってください.
  • 手始めとして,失敗から学ぶのは大事なので,ぜひ続けて欲しい.ただ,欲を言えば,企画や構想力の方が将来の日本としては重要なので,前段階でそれを取り入れていただく方が良いと思う.
  • 現場は常に Plan, Do, Check, Actionの繰り返しであり,その教育目標は良いと思います.
  • (提案されているカリキュラムは)非常に良い.日程計画も作成すると良い.分析・解析技術を使うとよい.何回か繰り返すとさらに良い.これに関するレポートも重要.
  • (提案されているカリキュラムを)ぜひ実施して頂きたい.物を作る前にどんな問題があるか見出す過程も入れると良い.
  • 製造業ではこのカリキュラムは不可欠.自ら先頭に立ち,問題解決に行動する気質を培うカリキュラムをすれば効果大.
  • (提案されているカリキュラムは)企業で役に立つ良い方法と思います.技術文章を書けるようにするために,論文執筆1件を必修とする.
  • (提案されているカリキュラムは)素晴らしいと思います.多方向からの視点が重要.製品によって重視するポイントが違う.ターゲットを絞ることが必要(コスト,投資,信頼性,外観,耐久性など).一つの例をとって,コンセプト,用途,重視したポイント,トレードオフで軽視せざるをえなかったポイントを分析する.
次に福井大学工学部機械工学科 新卒者に不足している点に関しては,以下のとおりです.
  • 基礎学力はあると思うが,自己を表現できる能力が不足しているように思う.
  • 世間で評判の良い大学(有名大学)を出た学生が創造的かと言うとそうでもなく,前向きに考えることができ,気力のある方が必要と思われます.
  • 自分で計画をたてて,進捗を管理し,自己評価することは非常に難しいが必要です.
  • 新人は,いわゆる「やる気」が少ないように感じます.
  • 上司から言われたことはするが,それ以上のことを積極的に考え,提案し,実行することはしないようです.
  • 英語は他大学の人の方が在学中に良く勉強しているようです.機械系の特色と思いますが,知識が浅いように思います.
最後に私たち教員と後輩の皆さんに向けてのメッセージは以下のとおりです.
  • 基礎学力と物作りへの応用力のある一般良識のある社会人を育成してください.クラブ活動は企業人として活躍する下地,基礎ができますので,重視してください.
  • 人間的素養(自己をいつも高め,自己表現ができ,他の人をリードする等)の教育も必要と思う.
  • 人をまとめ,使って目的物を作りあげるリーダーシップ能力(専門バカと言われるのではなく,人とのコミュニケーションを高め,人をまとめ経営していける能力)を学習すべき.
  • 今から学ぶことが実社会でどのように使用され,必要性があるのかを学ぶ前に説明があれば,学ぶことが楽しくなると思います.
  • 今の新人は,自分からものごとを創造したり工夫したりする意欲や挑戦する意欲に乏しいと思われる.人とのかかわり方が下手でコミュニケーションをとったり協調性に欠ける新人も多いと感じられる.
  • 福井大学として1つ他校より集中教育するものがあるとそれが学生の魅力となると思う.
  • 一番大事なのは,すると決めたことを最後までやりぬく体力と精神力,中国や韓国に勝つためには勤勉さだと思います.
  • 就職して感じるのは時間がないこと.大学時代の余裕のある時間を有効に使えていればと思います.あれだけの時間があれば,英語も上達しただろうし,大学教育以外の分野で専門知識を高めることができたと思います.
(3) 企業の人たちからの意見と学生アンケート
 「学習・教育到達目標」の設定にあたって,平成14年に企業の人事担当者にアンケートを実施しました.ここでは,その結果の一部を示します.
(質問)
大学新卒者に求められる能力についてお尋ねします.以下の項目について、その重要度に応じて( )内に数字をご記入下さい.(重要度が高い項目から1, 2, 3, ・・・・)
(結果)
各企業の人事担当者の回答に対して順位1位の項目には13点,2位の項目には12点,・・・・,13位の項目に1点を与え,それぞれの項目に対する平均点を(  )内に示します.平均点が高いほど重要度が高いことになります.
(11.2)基礎学力と、その応用力
( 9.0)実学(ものづくりに関する応用力)
(10.5)創造力・開発力 
(10.5)視野の広さ、発想の広さ・豊かさ 
( 9.7)文書・口頭によるコミュニケーション力 
(11.5)チャレンジ精神 
( 9.6)自己啓発意欲の旺盛さ
( 9.0)問題発見力 
( 9.1)問題解決力 
( 9.5)社会性・協調性
( 8.7)肉体的・精神的タフネス
( 7.9)英語力 
( 9.1)プレゼンテーション力 
 平成15年には企業の人事担当者と在学生に福井大学工学部機械工学科の「教育理念・目的」と「学習・教育到達目標」に対する以下のようなアンケートを実施しました.その結果(平均点)を併せて示します.

 @
機械工学科の教育理念・目的について(番号に○を付けて下さい)
 「人が環境と調和した快適な社会生活を過ごすためのモノづくりに寄与できる機械工学教育を行い,次に掲げる機械技術者を養成する.すなわち,環境と調和したモノづくりのための基礎学力と応用力を有し,未知の問題に対応する能力を備え,倫理観を持って国際社会において活躍できる機械技術者を養成する.」―(平均点4.63:企業人事担当者)

*在学生の結果―(3.79:1年次生),(3.71:2年次生),(3.70:3年次生),(3.78:4年次生),
        (4.00:修士1年次生),(3.61:修士2年次生)

 A
機械工学科の学習・教育到達目標について
 本学科の学生が社会に出る前に身に付けておくべき能力です.皆様方が重要とお考えになる度合に応じて,重要度の番号に○を付けて下さい.

 (A)
資源,エネルギー,環境,文化,経済,政治などを地球的な視点でとらえ,「環境と調和した快適な社会生活」とは何かについて考える能力 ―(平均点3.82:企業人事担当者)

*在学生の結果―(4.11:1年次生),(4.04:2年次生),(3.94:3年次生),(4.08:4年次生),
        (4.13:修士1年次生),(4.04:修士2年次生)

 (B)
技術が自然や社会におよぼす影響を理解し,技術と技術者が社会で果たすべき役割と責任を自覚する能力 ―(平均点4.24:企業人事担当者)

*在学生の結果―(4.18:1年次生),(4.09:2年次生),(4.00:3年次生),(4.18:4年次生),
        (4.42:修士1年次生),(4.04:修士2年次生)

 (C)
数学(線形代数,微分積分学,確率・統計),物理(力学・電磁気学)および情報技術に関する基礎知識を有し,それらを機械工学に関連する専門技術分野に応用できる能力―(平均点4.09:企業人事担当者)

*在学生の結果―(4.07:1年次生),(4.07:2年次生),(3.89:3年次生),(3.82:4年次生),
        (4.26:修士1年次生),(4.09:修士2年次生)

 (D)
機械工学の主要分野(材料と構造,運動と振動,エネルギーと流れ,情報と計測・制御,設計と生産・管理,機械とシステム)に関する基礎知識を有し,それらを諸問題の設定・解決に応用できる能力 ―(平均点4.53:企業人事担当者)

*在学生の結果―(3.96:1年次生),(4.24:2年次生),(4.11:3年次生),(4.24:4年次生),
        (4.45:修士1年次生),(4.22:修士2年次生)

 (E)
環境と調和したモノづくりの構想・設計・実行・評価を行う能力―(平均点4.09:企業人事担当者)

*在学生の結果―(4.02:1年次生),(4.14:2年次生),(4.09:3年次生),(4.06:4年次生),
        (4.13:修士1年次生),(4.04:修士2年次生)

 (F)
「環境と調和した快適な社会生活」を実現するための課題を設定し,その解決のために実験等を自主的かつ継続的に計画・遂行し,その結果を総合的に評価・論述,発表・討議する能力―(平均点4.09:企業人事担当者)

*在学生の結果―(3.98:1年次生),(3.87:2年次生),(3.93:3年次生),(4.20:4年次生),
        (4.16:修士1年次生),(3.96:修士2年次生)

 (G)
日本語でコミュニケーションする能力及び機械工学に関する内容を英語でコミュニケーションする基礎能力―(平均点4.30:企業人事担当者)

*在学生の結果―(4.10:1年次生),(3.87:2年次生),(4.11:3年次生),(4.22:4年次生),
        (4.39:修士1年次生),(4.52:修士2年次生)

(目標(H)は,2012年4月に追加設定されたので,このアンケート調査には含まれていない.)


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