電子機器の微細化と高集積化により,電力密度は継続的に増加し,熱流束は100〜200W/cm2に達しており,電気自動車のパワーアンプの熱流束が1kW/cm2に達する可能性があると予想されている。このような高い熱流束はプール沸騰の限界熱流束(約120W/cm2程度)を超えるため,伝熱性能を維持した上で限界熱流束を高めることが必要である。 また,原子炉が過酷事故時の安全性の確保及び宇宙ステーションでの相変化冷却の実現には,加熱面が下向き或いは浮力が働かない条件での相変化性能の確保が求められている。
プール沸騰の冷却能力限界である限界熱流束及び加熱面の設置方向の制約から解放され,同時に高い伝熱性能を達成できる自己吸引沸騰方式を提案する。沸騰流路形状と表面濡れ性を設計することにより,気泡が流路の拡張方向に沿って膨張し,多孔質層を通して液体を流路内に自発的に吸い込む効果を図る。蒸気の排出方向と液体の供給方向を分離することで,伝熱性能促進と限界熱流束の向上が同時得られる。さらに,気泡と液体の移動に浮力を利用しないため,下向きの伝熱面やプール沸騰の性能が著しく低下する微小重力環境への適用も期待される。
自己吸引沸騰は,本研究での独自の提案である。一般的に用いられている浮力駆動沸騰方式(プール沸騰)と外力駆動沸騰方式(流動沸騰)とは全く異なり,加熱面から発生する蒸気の膨張が,蒸気の排出や加熱面への液供給の駆動力となる革新的な沸騰方式である。プール沸騰の浮力駆動に起因する限界熱流束の制限を克服し,限界熱流束の向上と加熱面の設置方向及び重力の有無の影響が受けにくい優れた性能が期待される。また,加熱面からの熱移動は主に加熱面と気泡の間の薄い液膜の薄液膜蒸発によるものであり,プール沸騰より高い伝熱性能が得られる。