福井大学工学系研究科スマートサーマルシステム研究室は、2021 年 4月に新設された。本研究室は、新領
域の学問の開拓と、環境やエネルギー問題の解決に寄与できる人材の育成を目的としている。
前職の東京大学大学院新領域創成科学研究科では、省エネ技術や快適な住居空間の創出に注力し、長期に
わたる都市のエネルギーシステムの研究を推進してきた。学術的重要性と社会への貢献の両面を重視し、先
進的な熱交換器の研究から、冷媒の低GWP化、太陽エネルギーのコジェネレーション利用、冷凍空調システ
ムの革新に至るまで、幅広い研究開発を展開してきた。これらの研究内容については、「冷凍」93号(2018年9月
号)1)に紹介されている。
これまでの取り組みを通じて、社会的要請に応え、既存のエネルギー機器の性能向上と高効率化に関わる
基礎研究及び実用化を推進してきた。福井大学への移籍後は、長期的な社会的変動や環境の持続可能性に配慮し、
国際協力のもとでエネルギー利用の効率化、低炭素化、そしてスマート化を目指した研究活動を展開する予定である。
目標達成のため、今までの研究経験を活かし、他分野の最新研究成果を積極的に取り入れた総合的なアプローチを採用している。
今までの研究成果の発展、社会実装と新たな研究フェーズの創成と多分野への展開として、下記の研究テーマに取
り組んでいる。
(1) 先進熱交換器の研究:
マイクロ熱交換器の性能向上とスマート化を目指し、相変化時の気液・固液界面における熱・物質移動の理論的解明、数値解析手法、および分子シミュレーションの開発
新しい放射拡張流路を用いた流動沸騰二相流の安定化および高効率化技術の確立
化学的、電気化学的、光学的及び機械的な手法による伝熱表面の改質(超親水、超撥水化、濡れ性の温度依存性表面)による能動的な流動制御と先進伝熱促進技術の開発
(2) 冷凍空調システムのイノベーション:
撥水性分離膜を用いた小型・高性能な吸収冷凍機の開発及び自動車エンジン排熱・太陽熱駆動システムへの実装
電気自動車におけるバッテリーの加熱・冷却及び車室の空調と除霜を総合的に行う熱マネージメントシステムの開発
(3) 冷媒の低GWP化研究:
冷凍空調機器に用いる燃焼性ある次世代冷媒の安全性やリスクの評価
冷媒漏えい時の拡散、燃焼時の危害度評価、及びHFO冷媒の燃焼特性、熱分解、不均化反応の機構解明、抑制効果の評価
(4) データセンターの冷却システム:
IT 社会を支えるデータセンターの電力消費削減に着目した、エネルギー利用効率向上に有効な相変化冷却・熱回収システムの開発1000W/cm2を超える超高発熱密度、大規模データ
センターのサーバ冷却用スプレー冷却と液浸冷却システムの開発
(5) 航空宇宙熱工学
航空宇宙用高性能なループヒートパイプおよび自励振動型ヒートパイプの開発
無重力空間における自吸引式マイクロ流路冷却器を用いた高熱流束電子機器冷却手法の開発
無重力空間における超撥水分離膜を用いた空調機器内オイル冷媒分離機構の開発
エンジン燃焼室、タービン翼の高効率冷却手法の開発
大学における研究・教育の使命は、新しい学問分野の開拓と、研究活動を通じて社会に還元することであ
る。さらに、次世代を担う学習能力の高い、想像力豊かな人材を育てることが重要である。そのような使命
を達成するためには、大学間の交流、学会、産業界の協力が必要不可欠である。今までご協力いただいた多
くの皆様に、感謝の意を表したい。
また、研究室に関するより詳細な紹介については、研究室のホームページをご参照いただきたい。今後ともご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
本研究室の教育研究活動にご支援いただきますようお願い申し上げます.
教授 党 超鋲