AI時代の熱を制御する
― チップ冷却からデータセンター、熱エネルギー利用まで ―
福井大学スマートサーマルシステム研究室は、2021年4月に設立されました。気液二相流と相変化伝熱を研究の基盤とし、沸騰、蒸発、凝縮などの現象を理解するとともに、それらを実際の熱マネジメントへ応用する研究を行っています。
現在、特に力を入れているのがAI・データセンターの冷却です。CPUやGPUの発熱量が増え、空冷から液冷への移行が進んでいますが、さらに高い発熱密度に対応するには、単相液冷だけでは流量やポンプ動力が大きくなります。そこで私たちは、沸騰を避けるのではなく、安定して利用する二相冷却を研究しています。
一方で、低GWP冷媒を用いたヒートポンプ、着霜・除霜、データセンターなどからの排熱利用も研究しています。気泡や薄液膜といった小さなスケールの現象から、コールドプレート、熱交換器、熱エネルギーシステムまで、実験を中心に幅広く扱っています。
1. AI・データセンター/高性能半導体の次世代冷却
現在のデータセンターでは、コールドプレートに液体を流す単相液冷が広く使われています。ただし、発熱量がさらに増えると、必要流量やポンプ動力が増え、温度分布も不均一になりやすくなります。私たちは、その次の冷却方式として、冷媒の沸騰と潜熱を利用する二相冷却を検討しています。
その中心となるのが、独自に研究している放射状拡張流路型コールドプレートです。流れ方向に流路断面積を広げることで、沸騰によって増えた蒸気を下流へ排出しやすくし、圧力損失や逆流を抑えます。現在は、一枚のコールドプレートだけでなく、複数のCPU・GPUを想定した直列・並列接続や、入口に二相流が入る場合の安定性についても調べています。
また、誘電性流体を用いた液浸冷却や、3D実装半導体の内部から直接熱を取り出す微小流路冷却についても検討しています。
2. 自己吸引沸騰 ― 相変化そのものを利用して液体を供給する
沸騰冷却では、発生した蒸気を速やかに逃がすことと、加熱面へ液体を供給し続けることの両方が重要です。高い熱流束になると、蒸気と液体が同じ場所を逆向きに流れるため、液体の供給が妨げられ、加熱面が乾きやすくなります。
そこで研究しているのが自己吸引沸騰(Self-pumping / Self-suction boiling)です。気泡の成長・膨張によって生じる圧力変化を利用し、多孔質体を通して液体を加熱面へ吸引します。一方、蒸気は拡張流路から排出し、液体の供給経路とできるだけ分けることで、両者の干渉を抑えます。
現在は、高熱流束域で液供給がどこまで維持できるか、下向き加熱や低圧条件でも同じ仕組みが働くかを調べています。将来は、データセンターや3D実装半導体など、設置方向やスペースに制約のある冷却への応用を考えています。
3. 二相流・相変化と高性能伝熱面
二相冷却の性能は、気泡の発生や成長、壁面との間にできる薄い液膜、濡れや乾きなど、局所的な現象に大きく左右されます。こうした現象を理解することは、コールドプレートや熱交換器を設計するうえで欠かせません。
研究室では、高速カメラによる可視化、温度・圧力計測、顕微鏡観察、CFD解析を組み合わせ、マイクロ・ミニ流路の流動沸騰、プール沸騰、スラグ流、薄液膜、凝縮などを調べています。また、流路寸法、冷媒物性、混合冷媒、冷凍機油などが伝熱と圧力損失に及ぼす影響も研究しています。
さらに、表面の濡れ性、微細溝、金属フォーム、メッシュなどを利用して、液体を供給しやすく、同時に蒸気を逃がしやすい伝熱面を作る研究を行っています。
4. 次世代冷媒・ヒートポンプと着霜/除霜
ヒートポンプでは、冷媒の選択と熱交換器の性能がシステム全体の効率を大きく左右します。低GWP冷媒、自然冷媒、混合冷媒を対象に、沸騰・凝縮熱伝達、二相流、冷凍機油の影響などを調べています。
空気熱源ヒートポンプでは、冬季の着霜も重要な課題です。霜が付くと通風が悪くなり、熱交換性能が低下します。そこで、表面の濡れ性や微細構造を変えて霜の成長を抑える方法、除霜後の水を速やかに排出する方法、光熱変換を利用した防氷・除霜などを研究しています。
これらの研究は、住宅・業務用空調だけでなく、寒冷地用ヒートポンプや電気自動車の熱マネジメントにもつながります。
5. データセンター排熱・未利用熱の高度利用
データセンターの消費電力が増えるにつれて、冷却した後の熱をどう使うかも重要になります。特に液冷では、空冷より高い温度で熱を回収できるため、排熱を熱源として利用しやすくなります。
研究室では、回収した熱をヒートポンプで昇温し、給湯、暖房、産業用熱源などに利用する方法を検討しています。また、熱を使う時間と排熱が出る時間が一致しない場合に備えて、蓄熱、吸着・デシカント材料、熱応答性材料などとの組み合わせも研究しています。
冷却だけで終わらせず、回収した熱まで含めてシステムを考えることが、この研究のねらいです。
研究の進め方
研究は実験を中心に進めています。流路、試験部、熱交換器、伝熱面などは、できる限り自分たちで設計・製作します。高速カメラで流れを観察しながら温度、圧力、流量を測定し、必要に応じてCFD解析も使って現象を考えます。
企業や国内外の大学・研究機関との共同研究も多く、基礎的な現象の理解から実際の機器に近い試験まで、テーマに応じて研究を進めています。
学生の皆さんへ
熱の問題は、AI、半導体、自動車、空調、エネルギー、宇宙など、さまざまな分野にあります。本研究室では、装置を作り、現象を見て、なぜそうなるのかを考えることを大切にしています。
実験やものづくりが好きな人も、数値解析や理論に興味がある人も、それぞれの得意分野を生かして研究できます。自分で考え、手を動かしながら研究したい学生を歓迎します。
研究テーマは時代とともに変わりますが、気液二相流と相変化伝熱は、本研究室の研究を支える基礎です。基礎現象を丁寧に理解しながら、実際の熱問題に役立つ技術へつなげていきたいと考えています。
日頃より研究・教育活動をご支援いただいている共同研究先、企業、大学・研究機関の皆様に感謝申し上げます。
教授 党 超鋲