マイクロリアクタに応用される角型・矩形マイクロチャネル内ガス—液テイラー流の液膜厚さ特性に関する実験的研究

レーザー焦点変位計と高速度可視化による液膜厚さ分布の解明

論文タイトル:An experimental investigation on characteristics of liquid film thickness of gas-liquid Taylor flow in square/rectangular microchannel applied in microreactor
著者:Dengwei Fu, Yifei Hu, Zhaoyu Li, Chaobin Dang, Sihui Hong
掲載誌:International Journal of Heat and Mass Transfer, 234 (2024) 126081
DOI:10.1016/j.ijheatmasstransfer.2024.126081

研究概要

本研究では,マイクロリアクタに応用される気液テイラー流を対象として,角型および矩形マイクロチャネル内の液膜厚さを高精度に測定し,その変化と分布特性を明らかにしました。レーザー焦点変位計(LFDM)による液膜厚さ測定と高速度カメラによる可視化を組み合わせ,空気—水系および界面活性剤 Tween-20 添加系について,チャネル寸法,アスペクト比,キャピラリー数,表面張力が液膜形成に及ぼす影響を実験的に評価しました。

論文内容の1ページ図解

角型および矩形マイクロチャネル内ガス—液テイラー流の液膜厚さ特性に関する図解

図:研究背景,実験装置,液膜厚さの測定定義,主な結果,実験相関式,およびマイクロリアクタ設計への応用可能性を1ページに整理した概要図。

研究の背景と目的

マイクロリアクタでは,気液テイラー流により大きな気液界面積と安定した流動構造が得られ,反応,吸収,分離,熱・物質移動の高効率化が期待されます。特に CO2 吸収や化学反応プロセスでは,液膜厚さが気液間の物質移動距離や反応効率を支配する重要な因子となります。

円形マイクロチャネルにおける液膜厚さについては多くの研究がありますが,MEMS加工などで広く用いられる角型・矩形マイクロチャネルでは,断面形状や角部の影響により液膜分布が非一様となり,その詳細は十分に理解されていません。本研究は,角型・矩形チャネルにおける液膜厚さの変化と分布を定量的に明らかにすることを目的としました。

本研究の特徴

  • 高精度測定: レーザー焦点変位計(LFDM)により,気泡周囲の薄い液膜厚さを非接触で測定した。
  • 同期可視化: 高速度カメラにより,気泡形状と気泡速度を同時に取得した。
  • 多様なチャネル: 水力直径 0.3, 0.5, 0.7, 1.0 mm の角型チャネル,および深さ 0.5 mm の矩形チャネルを評価した。
  • 界面活性剤効果: Tween-20 添加による表面張力低下が液膜厚さと気泡形状に与える影響を調べた。
  • 実験相関式: Ca,Re,Bo,および Li/Dh を用いて,角型・矩形チャネルの無次元気泡径を記述する相関式を提案した。

提案手法と作動メカニズム

1. 気液テイラー流の生成と可視化

シリンジポンプにより空気と水溶液をT字合流部へ供給し,マイクロチャネル内に気液テイラー流を形成しました。高速度カメラにより,気泡形状,気泡長さ,気泡速度を可視化しました。

2. LFDMによる液膜厚さ測定

レーザー焦点変位計を用いて,空気のみの状態で内壁位置 x1 を測定し,気泡通過時に気液界面位置 x2 を測定しました。液膜厚さは δ = |x2 − x1| として算出しました。

3. 無次元化と液膜分布解析

角型チャネルでは D = 1 − 2δ/Dh,矩形チャネルでは測定方向に応じて Di = 1 − 2δi/Li と定義し,キャピラリー数 Ca に対する無次元気泡径の変化を解析しました。

4. 実験相関式の構築

Ca,Re,Bo,Li/Dh などの無次元数を用いて,角型および矩形マイクロチャネル内の液膜厚さを予測する実験相関式を構築しました。

主な結果

気泡速度と見かけ速度角型・矩形マイクロチャネルでは,気泡速度は見かけ速度に対してほぼ線形に増加しました。
モデル適用範囲Dh < 0.5 mm かつ α ≤ 1.0 の角型・矩形チャネルでは Kawahara らの角型/矩形チャネルモデルがよく適用でき,Dh > 1 mm では Gregory らのモデルで概ね記述できました。
三段階の液膜挙動無次元気泡径 D は Ca の増加に伴い,初期段階,減少段階,安定段階の三段階を示しました。
減少段階の開始 Ca角型チャネルでは Dh = 0.3, 0.5, 0.7, 1.0 mm に対して,D が減少段階へ入る Ca はそれぞれ 0.019, 0.015, 0.011, 0.009 でした。
矩形チャネルの方向依存性矩形チャネルでは,深さ方向と幅方向で液膜厚さの変化傾向が異なり,アスペクト比が液膜分布に大きく影響することが分かりました。
提案相関式の精度提案した相関式により,実験データの 90.3%±5% の誤差範囲内で予測されました。

今後の展望

本研究により,角型・矩形マイクロチャネル内の気液テイラー流における液膜厚さの信頼性の高い実験データと相関式が得られました。これらの成果は,マイクロリアクタやマイクロ熱交換器における熱・物質移動設計の基礎データとして有用です。

今後は,作動流体の物性,チャネル内壁の接触角,表面濡れ性,チャネル構造を変化させた実験を行うことで,液膜形成機構をさらに詳細に明らかにすることが期待されます。

また,数値シミュレーションや反応・吸収モデルと組み合わせることで,マイクロリアクタの高効率設計やスケールアップに向けた実用的な指針を得ることができます。

想定される適用分野

本研究の成果は,気液二相流を利用するマイクロスケールの反応・分離・熱交換デバイスに応用できます。

マイクロリアクタ設計CO2吸収・分離気液物質移動促進マイクロ熱交換器プロセス集約・強化化学反応プロセス

まとめ

本研究では,LFDMと高速度可視化を組み合わせ,角型および矩形マイクロチャネル内の気液テイラー流の液膜厚さを定量的に測定しました。

液膜厚さは,キャピラリー数,水力直径,アスペクト比,表面張力の影響を受け,角型・矩形チャネル特有の非一様性を示すことが分かりました。

結論: 角型・矩形マイクロチャネル内のテイラー流の液膜厚さは,Ca,Dh,アスペクト比,表面張力の影響を受け,提案相関式により高精度に記述できます。

論文情報・リンク