各種改質表面における冷媒―オイル混合液の核沸騰熱伝達

表面微細構造・ぬれ性・オイル濃度が気泡挙動とHTCに及ぼす影響

論文タイトル:Experimental study of nucleate boiling heat transfer of refrigerant-oil mixture on various modified surfaces
著者:Minxia Li, Qifan Wang, Wenjie Xu, Chaobin Dang, Dandan Su, Xuetao Liu, Jing Li, Chenxu Wang, Chengjuan Yang
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 255 (2024) 124006
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2024.124006

研究概要

本研究では,冷凍・ヒートポンプシステムの蒸発器における冷媒―潤滑油混合液の核沸騰熱伝達を対象として,表面微細構造,ぬれ性,およびオイル濃度が熱伝達係数と気泡挙動に及ぼす影響を実験的に評価しました。R134a-POE混合液およびR1234ze(E)-POE混合液を用い,平滑面,初期レーザーアブレーション面,安定化レーザーアブレーション面,機械加工面,複合加工面の5種類の表面で核沸騰熱伝達を比較しました。

論文内容の1ページ図解

各種改質表面における冷媒―オイル混合液の核沸騰熱伝達を示すGraphical Abstract

図:冷凍・ヒートポンプ蒸発器における冷媒―オイル混合液の核沸騰を背景に,5種類の改質表面,プール沸騰実験,オイル濃度,ぬれ性,表面微細構造,気泡挙動,HTC変化,設計指針をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

冷凍・ヒートポンプシステムでは,蒸発器の性能がシステム効率に直接影響します。圧縮機には潤滑・冷却・密封・騒音低減のために潤滑油が使用され,その一部は冷媒とともに蒸発器へ流入します。

潤滑油は冷媒の物性,気泡発生,気泡成長,離脱挙動,壁面ぬれ性,局所熱抵抗を変化させるため,冷媒単体を前提にした蒸発器設計では実機性能とずれが生じる可能性があります。

本研究の目的は,冷媒―オイル混合液の核沸騰熱伝達に対して,表面微細構造とぬれ性のどちらがより支配的かを明らかにし,改質表面を用いた蒸発器・熱交換器設計の指針を提示することです。

本研究の特徴

  • 実用蒸発器に近い問題設定: 冷媒に潤滑油が混入する実際の冷凍・ヒートポンプサイクルを対象にした。
  • 2種類の冷媒―油混合液: R134a-POEおよびR1234ze(E)-POE混合液の核沸騰を評価した。
  • 5種類の改質表面を比較: SS,ILAS,SLAS,MS,CPSを用いて,表面微細構造とぬれ性の影響を切り分けた。
  • 気泡挙動の可視化: 高速度カメラにより発泡,気泡密度,気泡径,竜巻状気泡群を観察した。
  • 設計指針の提示: 高低核生成サイトを交互に配置する表面パターンの重要性を示した。

提案手法と作動メカニズム

1. 改質表面の作製

平滑面,初期レーザーアブレーション面,安定化レーザーアブレーション面,機械加工面,複合加工面を作製し,SEM観察,表面粗さ測定,静的接触角測定により表面特性を評価しました。

2. プール沸騰実験

銅製加熱ブロックを用いたプール沸騰装置により,R134a-POEおよびR1234ze(E)-POE混合液の核沸騰熱伝達を測定しました。飽和温度は10 ℃,オイル濃度は0,1,3,5 wt%としました。

3. 熱伝達係数と気泡挙動の評価

熱電対温度からフーリエ則により熱流束を計算し,壁面過熱度からHTCを求めました。同時に高速度カメラで気泡発生・成長・離脱・気泡群形成を観察しました。

4. 表面構造・ぬれ性・オイル濃度の比較

各表面におけるHTCを比較し,表面ぬれ性だけでなく微細構造が核生成サイト密度,気泡合体抑制,局所オイル濃度上昇に与える影響を解析しました。

主な結果

HTCの順位冷媒―オイル混合液のHTCは,概ね CPS > ILAS > SLAS > MS > SS の順で高くなりました。
表面微細構造が支配的表面微細構造はぬれ性よりもNBHTに大きな影響を与えました。CPSはILASより接触角が約 17° 大きいにもかかわらず,HTCは最大 152% 高くなりました。
オイル添加の二面性オイル添加は発泡と竜巻状気泡群を促進し,伝熱に有利に働く側面があります。一方で,粘度と表面張力の増加による負の影響がより支配的でした。
オイルによるHTC低下オイル濃度と熱流束が増加すると,HTCはさらに低下しました。これは局所オイル濃度上昇,粘度増加,表面張力増加により熱抵抗が増えるためです。
高油濃度で改質表面の差が縮小改質表面では核生成サイトが増えるため,局所的なオイル濃度も高くなります。その結果,高いオイル濃度では各改質表面間のHTC差が小さくなりました。
代表的な低下率q = 24 kW/m²,R134a-POE,ω = 5%では,純R134aに比べてHTCはSS,ILAS,SLAS,MS,CPSでそれぞれ 40.1%,59.2%,49.9%,43.8%,60.3% 低下しました。

今後の展望

本研究は,冷媒―オイル混合液の核沸騰熱伝達において,単にぬれ性を改善するだけでは不十分であり,表面微細構造の設計が第一に重要であることを示しました。

今後は,実機蒸発器に近い流動沸騰条件,異なる冷媒・潤滑油組合せ,長期運転時の表面劣化,オイル蓄積,局所濃度分布,改質表面の耐久性を検証することが重要です。

想定される適用分野

本研究の成果は,潤滑油を含む冷媒が蒸発する冷凍・ヒートポンプ用熱交換器の設計に応用できます。

冷凍・冷蔵システムヒートポンプ蒸発器空調用熱交換器低GWP冷媒システム表面改質熱交換器高効率蒸発器設計

まとめ

本研究では,冷媒―POE混合液の核沸騰熱伝達を5種類の改質表面で比較し,表面微細構造,ぬれ性,オイル濃度の役割を明らかにしました。

オイルは発泡を促進する一方,粘度と表面張力を増加させ,結果としてHTCを低下させます。改質表面の設計では,まず高密度な核生成サイトを持つ微細構造を構築し,その上でぬれ性改善を検討することが有効です。

結論: 冷媒―オイル混合液の核沸騰熱伝達では,表面微細構造がぬれ性よりも支配的であり,オイル添加は発泡を促進する一方で,粘度・表面張力増加により最終的にHTCを低下させます。

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