複数熱源に適用する放射状拡大チャネル型ヒートシンクの冷却性能

データセンター向け複数熱源二相冷却における並列・直列接続の実験的評価

論文タイトル:Experimental research on cooling performances of radial expanding-channeled heat sinks applied for multiple heat sources
著者:Sihui Hong, Chengzhi Li, Chaobin Dang, Mengjie Song, Hitoshi Sakamoto
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 237 (2024) 121789
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2023.121789

研究概要

本研究では,データセンターや高熱流束電子機器における複数熱源の冷却を対象として,放射状拡大チャネル型ヒートシンク(ECHS)の冷却性能を実験的に評価しました。従来の直線チャネル型ヒートシンクでは,複数並列流路における二相流不安定性,流量偏分配,圧力・温度振動,局所ドライアウトが実用化の課題となります。本研究では,2台のECHSを並列または直列に接続し,熱負荷を個別に変化させた場合の流量分配,過渡安定性,熱抵抗,ドライアウト耐性を調べました。

論文内容の1ページ図解

複数熱源に対する放射状拡大チャネル型ヒートシンクの安定二相冷却を示すGraphical Abstract

図:データセンター・高熱流束電子機器の複数熱源冷却を背景に,放射状拡大チャネル型ヒートシンクの構造,並列・直列接続モード,二相流安定化メカニズム,熱負荷急変時の流量再分配,低熱抵抗,および応用可能性をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

5G,クラウドコンピューティング,AI,ビッグデータの発展により,データセンターの規模と計算密度は急速に増加しています。データセンターでは冷却システムが総消費電力の大きな割合を占めるため,高効率で信頼性の高い熱管理技術が必要です。

複数のCPU,サーバーボード,ラックが同時に発熱する実際のシステムでは,熱源ごとに熱負荷が異なり,また急激に変動します。従来の並列マイクロチャネル沸騰冷却では,流量偏分配,圧力変動,温度振動,逆流,局所ドライアウトが発生しやすく,信頼性の面で課題があります。

本研究の目的は,低い二相流抵抗を維持しながら流動沸騰の不安定性を抑制できる放射状拡大チャネル型ヒートシンクを用いて,複数熱源の並列・直列接続における冷却安定性を実験的に明らかにすることです。

本研究の特徴

  • 放射状拡大チャネル構造: 中央入口から周辺出口へ向かってチャネルが放射状に拡大する構造を採用した。
  • 低流動抵抗と高安定性: 気泡を外側へ導き,逆流を抑制し,二相域でも低い圧力損失を維持する。
  • 複数熱源接続を評価: 2台のECHSを並列および直列に接続し,実機に近い複数熱源冷却条件を再現した。
  • 動的熱負荷を考慮: 一方の流路の熱負荷を急変させ,もう一方の流路の温度,流量,圧力応答を測定した。
  • 従来直線チャネルとの比較: ニードルバルブ,ボールバルブ,チェックバルブを用いた従来型安定化方法と比較した。

提案手法と作動メカニズム

1. ECHSの設計思想

作動流体は中央入口からヒートシンクに流入し,沸騰による相変化と体積膨張に合わせて放射状拡大チャネルを通って外周出口へ流れます。この形状により,蒸気の過剰な加速,逆流,局所ドライアウトを抑制します。

2. 並列接続実験

2台のECHSを並列に接続し,片側の熱負荷を400 Wから0 Wへ変化させることで,熱負荷急変時の流量再分配,温度応答,差圧変動を評価しました。

3. 直列接続実験

2台のECHSを直列に接続し,第1ヒートシンク通過後の二相流が第2ヒートシンクに入る条件で,HTC,熱抵抗,ドライアウト発生の有無を評価しました。

4. 従来直線チャネルとの比較

従来直線チャネル型ヒートシンクでは,バルブによる入口抵抗を加えて二相流安定化を試みました。これにより,ECHSがバルブなしで安定動作できるかを比較しました。

主な結果

並列接続で均一な流量分配2台のECHSを並列接続した場合,入口流量は2つのヒートシンクへ均等に分配され,両者の熱伝達性能はほぼ同一でした。
急な熱負荷変化でも安定一方の流路の熱負荷が急変した場合,もう一方の流量は 10~30% 変化しましたが,二相流不安定や熱性能劣化は発生しませんでした。
低熱抵抗並列および直列接続のいずれにおいても,両ヒートシンクの熱抵抗は 0.025 ℃/W 未満でした。
流量条件と安全運転初期流量が 0.28 kg/min を超える場合,不安定性やドライアウトは観察されませんでした。
低流量でも強い安定性非常に低い総流量では最大流量差が 48.1% に達しましたが,熱性能への影響は小さく,温度上昇は約 3.5 ℃ に抑えられました。
直列接続も有効直列接続では第2ヒートシンクの伝熱性能が第1ヒートシンクよりわずかに高く,これは作動流体の加速と対流促進によるものと考えられます。

今後の展望

本研究は,放射状拡大チャネル型ヒートシンクが,複数熱源を持つ電子機器冷却において,低圧力損失,高い二相流安定性,低熱抵抗を同時に実現できることを示しました。

今後は,実際のCPU・GPU・サーバーボードを用いた長期試験,より大規模な並列・直列ネットワーク,冷却液選定,流量制御,サーバーラック単位での統合熱管理,およびデータセンター実装に向けた信頼性評価が重要です。

想定される適用分野

本研究の成果は,複数の高熱流束熱源を持つ電子機器冷却システムに応用できます。

データセンター冷却CPU・GPU冷却サーバーボード冷却サーバーラック熱管理パワーエレクトロニクス高熱流束二相冷却

まとめ

本研究では,放射状拡大チャネル型ヒートシンクを2台接続し,並列および直列条件での流動沸騰冷却性能を実験的に評価しました。

ECHSはバルブによる強い入口抵抗を用いなくても,均一な流量分配,低熱抵抗,熱負荷変動への耐性,ドライアウト抑制を実現しました。

結論: 放射状拡大チャネル型ヒートシンクは,複数熱源を持つ高熱流束電子機器に対して,並列・直列接続の両方で安定した低抵抗二相冷却を実現でき,データセンター向け統合熱管理に有望です。

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