潤滑油が非共沸冷媒の流動沸騰に及ぼす影響:エントロピー生成解析

R447A/潤滑油混合系の熱伝達・圧力損失・不可逆損失を統合評価

論文タイトル:Effect of lubricating oil on non-azeotropic refrigerant in flow boiling: an entropy generation analysis
著者:Qifan Wang, Liwei Dong, Minxia Li, Chaobin Dang, Xuetao Liu, Dandan Su, Qing Miao
掲載誌:International Journal of Green Energy, 21(9) (2024) 2128–2141
DOI:10.1080/15435075.2023.2297769

研究概要

本研究では,非共沸三成分冷媒 R447A の流動沸騰過程において,潤滑油が熱伝達,圧力損失,および不可逆損失に与える影響を,エントロピー生成解析により評価しました。R447AはR410A代替候補の一つであり,実際の冷凍・ヒートポンプシステムでは圧縮機から潤滑油が蒸発器へ混入します。本研究は,R447A単体およびR447A/潤滑油混合系の流動沸騰エントロピー生成モデルを構築し,質量流束,熱流束,沸点温度,入口乾き度,管径,油濃度が不可逆損失に及ぼす影響を明らかにしました。

論文内容の1ページ図解

潤滑油が非共沸冷媒R447Aの流動沸騰に及ぼす影響をエントロピー生成解析で示すGraphical Abstract

図:冷凍・ヒートポンプ用蒸発器を背景に,R447A/潤滑油混合系の流動沸騰,熱伝達起因エントロピー生成,圧力損失起因エントロピー生成,主要パラメータの影響,および熱交換器設計への指針をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

冷凍・空調・ヒートポンプシステムでは,蒸発器内で冷媒が流動沸騰しながら熱を吸収します。低GWP冷媒への転換が進む中,非共沸混合冷媒は温度すべりにより熱源温度変化とよく整合し,エネルギー効率向上が期待されています。

一方,実際の蒸気圧縮システムでは,圧縮機潤滑のために使用される潤滑油の一部が冷媒とともに蒸発器へ流入します。潤滑油は熱伝達係数と圧力損失の両方を変化させるため,単に熱伝達だけ,または圧力損失だけを見るのでは,蒸発器性能を総合的に評価できません。

本研究の目的は,エントロピー生成を指標として,R447A/潤滑油混合系の流動沸騰における熱伝達と圧力損失のトレードオフを統合的に評価し,蒸発器・熱交換器設計のための最適条件を明らかにすることです。

本研究の特徴

  • 実用システムに基づく問題設定: 圧縮機から蒸発器へ潤滑油が混入する実際の冷凍・ヒートポンプシステムを対象にした。
  • R447Aを対象: R410A代替候補である非共沸三成分冷媒 R447A を作動流体として採用した。
  • 油あり/油なしの比較: R447A単体とR447A/潤滑油混合系の流動沸騰エントロピー生成モデルを構築した。
  • 不可逆損失の分解: エントロピー生成を熱伝達起因成分と圧力損失起因成分に分けて評価した。
  • 設計指標の提案: 条件による管長の影響を除くため,単位管長あたりのエントロピー生成を比較基準として用いた。

提案手法と作動メカニズム

1. 水平平滑管内の流動沸騰モデル

一定熱流束を受ける単一の水平平滑管内で,R447AまたはR447A/潤滑油混合系が入口乾き度 0.2~0.6 から出口乾き度 1.0 まで流動沸騰する過程を解析しました。

2. エントロピー生成モデル

総エントロピー生成を,熱伝達に起因するエントロピー生成 Sgen,h と,圧力損失に起因するエントロピー生成 Sgen,p に分解し,Sgen,total = Sgen,h + Sgen,p として評価しました。

3. 数値計算とパラメータ解析

MATLABを用いて管内を多数のセルに分割し,各セルで局所圧力,局所温度,局所油濃度,局所HTC,局所圧力損失を計算しました。質量流束,熱流束,沸点温度,入口乾き度,管径,油濃度の影響を系統的に調べました。

主な結果

最適質量流束の存在各油濃度において,単位管長あたりの総エントロピー生成を最小にする最適質量流束が存在しました。
油濃度と最適質量流束潤滑油濃度が増加すると,最適質量流束は低下しました。例として,油濃度 4.95% では最小 Sgen,tot,ave は約 0.020 W/(K·m),最適 G は約 170 kg/(m²·s) でした。
油なし条件との比較油濃度 0% では最小 Sgen,tot,ave は約 0.022 W/(K·m),最適 G は約 180 kg/(m²·s) でした。
管径の影響管径が大きくなると Sgen,h,Sgen,p,Sgen,total は増加しました。また,油を含む流体の最適質量流束は,同じ管径の油なし流体より小さくなりました。
油濃度の影響油濃度が 0% から 4.95% に増加すると,Sgen,h と Sgen,total は低下し,Sgen,p は一度増加した後に低下しました。
油添加の有効性本研究範囲では,0~4.95% の潤滑油添加は熱交換器の総エントロピー生成を低減する方向に働きました。代表条件では,油なしの Sgen は 4.95% 油条件より約 20% 高く,単位管長あたりでは約 15.2% 高いと報告されています。

今後の展望

本研究は,非共沸冷媒と潤滑油が共存する実用的な蒸発器に対して,熱伝達と圧力損失を同時に考慮する評価手法を示しました。今後は,異なる低GWP冷媒,潤滑油種類,管内構造,微細流路,実機蒸発器形状へ適用範囲を拡大することが重要です。

また,エントロピー生成解析を実験データやシステム性能評価と組み合わせることで,冷凍・空調・ヒートポンプシステムの高効率化,冷媒充填量低減,低GWP冷媒への転換に向けた設計指針として活用できます。

想定される適用分野

本研究の成果は,潤滑油を含む低GWP冷媒の流動沸騰を利用する蒸発器・熱交換器設計に応用できます。

空調用蒸発器ヒートポンプシステム冷凍・冷蔵機器低GWP冷媒システム流動沸騰熱交換器熱伝達・圧力損失最適化

まとめ

本研究では,R447AおよびR447A/潤滑油混合系の流動沸騰エントロピー生成モデルを構築し,熱伝達起因損失と圧力損失起因損失を統合的に評価しました。

潤滑油は圧力損失を増加させる一方で,低~中乾き度域では熱伝達を改善し,研究範囲内では総エントロピー生成を低減する効果を示しました。

結論: R447A流動沸騰において,少量の潤滑油は熱伝達と圧力損失のトレードオフを変化させ,0~4.95%の範囲では総エントロピー生成の低減に有効であり,蒸発器設計の最適質量流束選定に重要な指針を与えます。

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