水平円管外面におけるR32/R134a非共沸冷媒の落下液膜蒸発流動特性

低冷媒充填量・高効率蒸発器設計に向けた液膜厚さ分布の数値解析

論文タイトル:Numerical simulation of flow characteristics of falling-film evaporation of R32/R134a non-azeotropic refrigerant outside a horizontal tube
著者:Qifan Wang, Xuetao Liu, Minxia Li, Dandan Su, Chaobin Dang, Jie Peng, Beiran Hou, Liwei Dong
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 236 (2024) 121724
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2023.121724

研究概要

本研究では,水平円管外面におけるR32/R134a非共沸冷媒の落下液膜蒸発を対象として,液膜流動特性と液膜厚さ分布を数値解析により評価しました。多成分相変化モデルと接触角モデルを支配方程式に組み込み,2次元VOFモデルを構築しました。スプレー高さ,管径,レイノルズ数,入口温度,液相中R32質量分率が局所液膜厚さおよび平均液膜厚さに及ぼす影響を明らかにしました。

論文内容の1ページ図解

水平円管外面におけるR32/R134a落下液膜蒸発の数値解析を示すGraphical Abstract

図:水平円管落下液膜蒸発器,R32/R134a非共沸冷媒,2次元VOF数値モデル,多成分相変化,液膜厚さ分布,接線方向速度,壁面せん断応力,最小液膜厚さ位置,および蒸発器設計への工学的意義をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

水平円管落下液膜蒸発器は,浸漬型蒸発器と比較して高い熱伝達係数と低い冷媒充填量を実現できるため,冷凍・ヒートポンプシステムにおける有効な蒸発器形式として注目されています。

落下液膜蒸発では,液膜厚さδとその周方向分布が,熱抵抗,流動安定性,局所ドライアウト,および蒸発器性能に大きく影響します。特に局所液膜厚さを正確に予測することは,局所乾きによる伝熱性能低下を防ぐ上で重要です。

非共沸冷媒では,蒸発過程で温度勾配と濃度勾配が生じ,物性値も温度・濃度に応じて非線形に変化します。そのため,水や純冷媒の知見だけではR32/R134a混合冷媒の液膜流動を十分に説明できません。

本研究の目的は,R32/R134a非共沸冷媒の水平円管外面落下液膜蒸発における流動特性と液膜厚さ分布を明らかにし,高効率・低冷媒充填量蒸発器設計のための基礎指針を得ることです。

本研究の特徴

  • 非共沸冷媒の落下液膜蒸発: R32/R134a混合冷媒を対象に,水平円管外面での液膜流動を解析した。
  • 多成分相変化モデル: 成分拡散,界面蒸発,潜熱,物性混合法則を支配方程式に組み込んだ。
  • VOFによる界面追跡: 気液界面の形状と液膜厚さをVOFモデルで追跡した。
  • 構造・運転条件の体系的評価: スプレー高さ,管径,レイノルズ数,入口温度,R32質量分率の影響を比較した。
  • 最小液膜厚さ位置の特定: 局所ドライアウトリスクが高い領域として,Φ = 130°〜140°付近を明らかにした。

提案手法と作動メカニズム

1. 2次元数値モデル

シート流条件を対象として,水平円管外面に噴霧されたR32/R134a液膜の蒸発流動を2次元モデルで表現しました。計算領域には液体入口,気体入口,圧力出口,対称境界,非滑り壁面を設定しました。

2. 物性値と混合法則

R32およびR134a各成分の物性値をREFPROPから取得し,温度関数として近似しました。混合冷媒の密度,粘度,熱伝導率,比熱,表面張力は,液相・気相ごとの混合法則により計算しました。

3. 支配方程式と相変化

VOFモデルにより気液界面を追跡し,SST k-ω乱流モデル,CSF表面張力モデル,多成分物質移動モデル,潜熱モデルを用いて流動,伝熱,物質移動を連成しました。

4. 液膜厚さの評価

局所液膜厚さδlocalは,VOF = 0.5で定義される気液界面と管中心からの距離に基づいて計算しました。平均液膜厚さδaveは,円周方向のδlocalを積分して求めました。

主な結果

速度場の特徴接線方向速度は法線方向速度より約1桁大きく,液膜流動は主に接線方向速度によって支配されました。スプレー高さが増加すると接線方向速度も増加しました。
壁面せん断応力周方向角度Φの増加に伴い,壁面せん断応力は一度増加した後に減少しました。最大壁面せん断応力は Φ = 130°〜140° 付近で現れました。
平均液膜厚さの傾向入口温度,スプレー高さ,管径の増加により平均液膜厚さは減少しました。一方,レイノルズ数および液相中R32質量分率の増加により平均液膜厚さは増加しました。
スプレー高さの影響H = 4 mmでは,δlocalはΦの増加に伴い一度低下した後に増加しました。H = 6〜13 mmでは,δlocalはわずかに増加し,その後低下し,ウェイク領域付近で急増しました。
管径の影響管径が大きいほど,衝突領域では液膜が厚くなり,下流領域では液膜が薄くなりました。管径増加により最小液膜厚さに対応するΦは前方へ移動しました。
Reの影響Reが増加すると,液膜は周方向により均一に分布しました。最小液膜厚さに対応するΦは大きく変化しませんでした。
最小液膜厚さ位置最小局所液膜厚さは主に Φ = 130°〜140° 付近で発生し,この領域が局所ドライアウト防止において重要であることが示されました。

今後の展望

本研究は,R32/R134a非共沸冷媒の水平円管落下液膜蒸発において,液膜厚さ分布を支配する因子と最小液膜厚さ位置を明らかにしました。

今後は,実験による直接検証,3次元管束モデル,隣接管への液膜再分配,実際の冷凍サイクル条件,ドライアウト発生を含む熱伝達モデル,および低GWP混合冷媒への展開が重要になります。

想定される適用分野

本研究の成果は,低冷媒充填量・高効率蒸発器の設計に応用できます。

冷凍システムヒートポンプ蒸発器水平円管落下液膜蒸発器低GWP混合冷媒低冷媒充填量熱交換器ドライアウト防止設計

まとめ

本研究では,R32/R134a非共沸冷媒の水平円管外面落下液膜蒸発を2次元数値解析し,液膜流動と液膜厚さ分布を評価しました。

液膜厚さはスプレー高さ,管径,レイノルズ数,入口温度,混合組成に強く影響されます。最小液膜厚さはΦ = 130°〜140°付近に現れ,この領域の液膜維持が蒸発器性能とドライアウト防止の鍵になります。

結論: R32/R134a非共沸冷媒の水平円管落下液膜蒸発では,液膜厚さの高精度予測が高効率・低充填量蒸発器設計に不可欠であり,特にΦ = 130°〜140°付近の最小液膜厚さを考慮した設計が重要です。

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