二段エジェクタを有するR1234yf/R245faカスケード空気熱源ヒートポンプのエネルギー・環境分析

低外気温・高温給湯条件におけるCOP向上,運転コスト低減,TEWI低減

論文タイトル:Energy and environment analysis of R1234yf/R245fa cascade air source heat pump system with double ejectors
著者:Jing Li, Minxia Li, Chaobin Dang, Qifan Wang, Liwei Dong, Xuetao Liu
掲載誌:Energy Conversion and Management, 325 (2025) 119404
DOI:10.1016/j.enconman.2024.119404

研究概要

本研究では,低外気温下で高温給湯を行うカスケード空気熱源ヒートポンプシステム(CHPS)の性能向上を目的として,単段エジェクタ付きカスケードヒートポンプ(SECHPS)および二段エジェクタ付きカスケードヒートポンプ(DECHPS)を提案しました。9種類の冷媒ペアを比較し,COP,安全性,環境特性の観点から,低温サイクルにR1234yf,高温サイクルにR245faを選定しました。そのうえで,熱力学性能,経済性,年間電力消費,運転コスト,TEWIを比較評価しました。

論文内容の1ページ図解

R1234yf/R245faカスケード空気熱源ヒートポンプシステムにおける二段エジェクタのエネルギー・環境・経済性分析のGraphical Abstract

図:CHPS,SECHPS,DECHPSの構成比較,R1234yf/R245fa冷媒ペア,二段エジェクタによる膨張仕事回収,COP向上,圧力比低減,年間電力消費・運転コスト・TEWI低減をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

暖房・給湯分野の脱炭素化は,カーボンピークおよびカーボンニュートラルの実現に向けて重要な課題です。空気熱源ヒートポンプは,安全性,省エネルギー性,環境性,低い初期投資などの利点を持つ一方で,低外気温下で80~100 ℃程度の高温給湯を行う場合,単段システムでは圧縮比上昇,吐出温度上昇,COP低下が問題となります。

カスケードヒートポンプシステムは,低温サイクルと高温サイクルを組み合わせることで大きな温度リフトに対応できます。しかし,従来のCHPSではスロットル膨張過程における不可逆損失が残り,低温環境での効率改善には限界があります。

本研究の目的は,CHPSにエジェクタを導入することで膨張仕事を回収し,圧縮機吸入圧力を高め,圧縮機仕事を低減することです。さらに,SECHPSおよびDECHPSを従来CHPSと比較し,エネルギー性能,経済性,環境影響を総合的に評価しました。

本研究の特徴

  • 二種類の新システムを提案: CHPSを基準として,SECHPSおよびDECHPSを構築した。
  • 二段エジェクタの導入: DECHPSでは低温サイクルと高温サイクルの両方にエジェクタを導入し,膨張仕事を回収した。
  • 冷媒ペアの選定: 9種類の冷媒ペアを比較し,R1234yf/R245faを解析対象として選定した。
  • 熱力学・経済・環境評価: COP,圧力比,圧縮機消費電力,年間電力消費,年間運転コスト,TEWIを評価した。
  • 地域適用性の評価: 哈爾浜,天津,武漢,広州,昆明の5都市を対象に,気候条件と料金条件を考慮した経済性を比較した。

提案手法と作動メカニズム

1. CHPS・SECHPS・DECHPSの比較

従来CHPSを基準システムとし,低温サイクルにエジェクタを追加したSECHPS,低温サイクルと高温サイクルの両方にエジェクタを追加したDECHPSを構築しました。

2. エジェクタによる膨張仕事回収

エジェクタは高圧作動流の膨張エネルギーを利用して低圧流体を吸引・混合し,圧力回復を行います。これにより圧縮機吸入圧力が上昇し,圧縮機仕事と圧力比が低減します。

3. 冷媒選定と熱力学モデル

低温サイクルおよび高温サイクルに適した冷媒を比較し,COP,ODP,GWP,安全性を考慮してR1234yf/R245faを選びました。MATLABとREFPROPによりサイクル計算を行いました。

4. 経済性・環境影響評価

年間電力消費と年間運転コストを天然ガス暖房と比較し,さらに冷媒漏洩と電力消費を含むTEWIを用いて環境影響を評価しました。

主な結果

COPの向上蒸発温度−25 ℃,凝縮温度80~100 ℃において,CHPSと比較してSECHPSのCOPは 3.87~4.68%,DECHPSのCOPは 10.12~11.29% 向上しました。
圧力比の低減DECHPSでは,低温サイクルの圧力比がCHPSより 18.59% 低下し,高温サイクルの圧力比も最大 17.23% 低下しました。
圧縮機消費電力の低減SECHPSおよびDECHPSでは,従来CHPSより圧縮機消費電力が低く,特にDECHPSが最も低い消費電力を示しました。
年間電力消費の削減5都市での年間運転評価において,CHPSと比較してSECHPSは 6.03~7.36%,DECHPSは 13.34~15.83% 年間電力消費を削減しました。
年間運転コストの削減天然ガス暖房と比較した場合,DECHPSの年間運転コストは地域条件により 0.12~44.77% 削減されました。
環境影響の低減TEWIはCHPSと比較して,SECHPSで 5.99~7.30%,DECHPSで 13.25~15.70% 低減しました。

今後の展望

本研究は,低外気温下で高温給湯を必要とする空気熱源ヒートポンプにおいて,カスケード化とエジェクタ導入を組み合わせることが,COP向上,圧縮機負荷低減,運転コスト低減,環境影響低減に有効であることを示しました。

今後は,エジェクタ形状の最適化,部分負荷運転,動的制御,デフロスト運転,実機実験,低GWP冷媒のさらなる組合せ,AI制御との統合などを検討することで,寒冷地・高温給湯用途への実用化が期待されます。

想定される適用分野

本研究の成果は,低外気温下で高温熱需要を持つ暖房・給湯システムに応用できます。

寒冷地住宅暖房商業施設給湯産業プロセス加熱地域暖房天然ガス暖房代替低炭素ヒートポンプ

まとめ

本研究では,R1234yf/R245faを用いたカスケード空気熱源ヒートポンプにエジェクタを導入し,SECHPSおよびDECHPSを提案しました。

二段エジェクタを用いるDECHPSは,三つのシステムの中で最も高いCOP,最も低い圧縮機消費電力,最も低い年間電力消費,最も低いTEWIを示しました。

結論: R1234yf/R245faカスケード空気熱源ヒートポンプに二段エジェクタを導入することで,低外気温・高温給湯条件におけるエネルギー性能,経済性,環境性能を同時に改善できます。

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