分離相流モデルに基づくスプリング-マス-ダンパモデルによる調整可能構造チャンネル付きパルスヒートパイプの性能解析

実際の二相スラグ流を考慮したモデル化により,パルスヒートパイプの振動挙動と熱性能を評価

論文タイトル:A spring-mass-damper model based on separated phase flow mode for pulsating heat pipe with adjustive-structured channels
著者:Sihui Hong, Jiangchuan Yu, Chaobin Dang
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 257 (2024) 124275
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2024.124275

研究概要

本研究では,パルスヒートパイプ(PHP)内の気液二相スラグ流の振動挙動をより適切に表現するために,分離相流モデルに基づく新しいスプリング-マス-ダンパモデルを構築しました。従来のモデルでは,二相流の摩擦抵抗を単相流として扱うことが多く,実際のスラグ流の圧力損失を十分に反映できないという課題がありました。本研究では,実際の二相流圧力損失と液膜蒸発を考慮し,さらに調整可能構造チャンネルを有する新しいPHP(ASCPHP)の性能を理論的に評価しました。

論文内容の1ページ図解

調整可能構造チャンネル付きパルスヒートパイプの性能解析を示す図解。

図:本研究の背景,スプリング-マス-ダンパモデル,調整可能構造チャンネルPHP,モデル検証,主な結果,および応用可能性を1ページにまとめた概要図。

研究の背景と目的

パルスヒートパイプ(PHP)は,小型・軽量で高い熱輸送能力を持つ受動型相変化冷却デバイスです。内部では液スラグと気スラグが交互に形成され,蒸発部と凝縮部の圧力差によって往復振動しながら熱を輸送します。

しかし,PHP内部の気液二相流は複雑で,振動挙動は不規則になりやすく,熱性能の予測や構造最適化を難しくしています。本研究の目的は,実際の二相スラグ流を反映したモデルを構築し,さらに調整可能構造チャンネルによる熱性能向上の可能性を評価することです。

本研究の特徴

  • 分離相流モデル: 実際のスラグ流に近い二相流圧力損失を減衰項として導入する。
  • スプリング-マス-ダンパモデル: 液スラグを質量,気スラグをばね,摩擦抵抗をダンパとして表現する。
  • 液膜蒸発モデル: 液膜厚さ,蒸発量,熱伝達係数の変化を振動挙動と関連付ける。
  • ASCPHP構造: 蒸発部で拡大,凝縮部で縮小する調整可能構造チャンネルを提案する。

提案手法と作動メカニズム

1. 気液スラグの力学モデル化

隣接する液スラグを質量,その間の気スラグをばねとして扱い,蒸発部と凝縮部の温度差から生じる圧力差を駆動力として,気液スラグの往復振動を表現します。

2. 分離相流による圧力損失評価

PHP内の実際の流動様式であるスラグ流を考慮し,単相流近似ではなく分離相流モデルにより二相流の摩擦圧力損失を評価します。

3. 調整可能構造チャンネルによる性能向上

蒸発部では断面を拡大して気泡の排出と液膜蒸発を促進し,凝縮部では断面を縮小して凝縮熱伝達を高めます。これにより,安定した方向性のある振動と高い熱輸送性能を実現します。

主な結果

モデル検証文献データとの比較により,80% のデータが ±20% の誤差範囲内に入り,モデルの妥当性が確認されました。
最適充填率充填率 50% 付近で最大振幅が得られ,ASCPHPの推奨充填率として示されました。
振動振幅充填率50%では振動振幅が約 0.12 m に達しました。
温度差の影響蒸発部と凝縮部の温度差が大きいほど振動振幅が増加し,液膜を介した熱・物質移動が促進されました。
飽和温度の影響飽和温度が 293 K から 373 K に上昇すると,振幅は約 24% 低下しました。
構造比較ASCPHPの振動速度は,Teslaバルブ付きPHPより 7.3%,チェックバルブ付きPHPより 10.8%,等径PHPより 17.0% 高くなりました。

今後の展望

本研究で提案した分離相流モデルに基づくスプリング-マス-ダンパモデルは,PHP内の実際の二相スラグ流をより適切に反映できるため,PHPの振動特性予測と構造最適化に有用です。

今後は,作動流体,充填率,配向条件,外部熱負荷条件,チャンネル形状をさらに変化させ,モデルの適用範囲を拡張することが重要です。また,実験結果との比較を進めることで,調整可能構造チャンネルPHPの設計指針をより実用的なものにできます。

特に,小型電子機器や宇宙機器のように限られた空間で高い熱輸送性能が求められる分野では,受動的な構造設計による熱性能向上が期待されます。

想定される適用分野

本研究の成果は,小型・高性能な受動冷却デバイスの設計に応用できます。

小型電子機器冷却 高発熱電子部品 宇宙機器熱制御 受動熱マネジメント 薄型熱輸送デバイス

まとめ

本研究は,分離相流モデルに基づくスプリング-マス-ダンパモデルを提案し,PHP内の気液スラグ振動をより現実的に評価しました。

さらに,調整可能構造チャンネルを有するASCPHPを提案し,より高い振動速度と優れた熱輸送性能が期待できることを理論的に示しました。

結論: 実際の二相スラグ流と液膜蒸発を考慮した本モデルは,パルスヒートパイプの構造最適化と高性能化に有効な設計ツールです。

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