ミクロ・ナノ複合構造表面上における非共沸冷媒の核沸騰熱伝達特性

低GWP冷媒を用いた高熱流束冷却のための表面構造設計

論文タイトル:Nucleate boiling heat transfer characteristics of non-azeotropic refrigerant on micro-nano composite structured surfaces
著者:Qifan Wang, Dandan Su, Jing Li, Minxia Li, Chaobin Dang, Chengjuan Yang, Chenxu Wang
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 267 (2025) 125823
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2025.125823

研究概要

本研究では,低GWP冷媒として期待される非共沸冷媒の核沸騰熱伝達を対象として,ミクロ・ナノ複合構造表面が限界熱流束(CHF)および熱伝達係数(HTC)に及ぼす影響を実験的に評価しました。まず,スムース表面上でR32,R1234yf,R454B,R454C,R32/R1234yf混合冷媒の沸騰特性を比較し,次にR32およびR454Bを用いて,機械加工,フェムト秒レーザー加工,酸化エッチング,低表面エネルギー処理を組み合わせた複合構造表面の効果を明らかにしました。

論文内容の1ページ図解

非共沸冷媒のミクロ・ナノ複合構造表面上での核沸騰熱伝達特性を示すGraphical Abstract

図:電子機器熱管理を背景に,非共沸冷媒,プール沸騰実験装置,スムース表面での冷媒比較,ミクロ・ナノ複合構造表面の作製方法,レーザー加工条件,CHF・HTC向上,酸化エッチングおよび低表面エネルギー処理の影響をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

電子部品の高集積化により,熱管理システムにはより高い冷却能力が求められています。高熱流束条件では単相冷却だけでは十分ではなく,潜熱を利用する沸騰相変化冷却が有望です。

冷却流体としては,環境性,安全性,エネルギー効率を両立する必要があります。R32は熱伝達性能に優れますがGWPと可燃性の課題があり,R1234yfは環境性に優れる一方で熱伝達性能が低いという特徴があります。

R32/R1234yf系の非共沸混合冷媒は,成分比を調整することで環境性と熱伝達性能のバランスを取れる可能性があります。しかし,非共沸冷媒では温度すべりや濃度差による物質移動抵抗が存在するため,水や純冷媒で得られた表面改質の知見をそのまま適用することはできません。

本研究の目的は,ミクロ・ナノ複合構造表面が非共沸冷媒の核沸騰熱伝達をどのように変化させるかを明らかにし,高熱流束冷却向けの表面設計指針を得ることです。

本研究の特徴

  • 非共沸冷媒を対象: R32/R1234yf系混合冷媒を中心に,低GWP冷媒の核沸騰熱伝達を評価した。
  • 高圧プール沸騰装置: 低沸点冷媒を液相状態で保持できる密閉高圧実験装置を構築した。
  • 複合構造表面を作製: 微細柱表面を基礎として,機械加工,フェムト秒レーザー加工,酸化エッチング,低表面エネルギー処理を組み合わせた。
  • CHFとHTCを同時評価: 表面構造が限界熱流束と最大熱伝達係数に及ぼす影響を比較した。
  • 冷媒では水と異なる傾向: ナノワイヤ構造や低表面エネルギー処理が冷媒沸騰では不利になる可能性を示した。

提案手法と作動メカニズム

1. 冷媒比較実験

スムース表面上でR32,R1234yf,R454B,R454C,R32/R1234yf = 0.5/0.5の核沸騰実験を行い,冷媒組成がCHFおよびHTCに与える影響を評価しました。

2. 複合構造表面の作製

銅基板上に機械加工で微細柱表面(MS)を形成し,その上にフェムト秒レーザー加工を行うことでMM-FLP複合構造表面を作製しました。さらに酸化エッチングによりナノワイヤ構造を付与し,必要に応じて低表面エネルギー材料で修飾しました。

3. レーザー加工条件の検討

レーザー出力,レーザー走査間隔,レーザー走査回数を変化させ,表面粗さ,核生成サイト密度,毛細管作用,気泡離脱挙動の変化が沸騰性能に与える影響を調べました。

4. 気泡挙動と伝熱機構

高速度カメラにより気泡生成,成長,合体,離脱を観察し,ミクロ構造とマウンド状ナノ構造が熱境界層を乱し,液体供給を促進し,大気泡合体を抑えるメカニズムを解析しました。

主な結果

スムース表面でのCHF順位CHFはR32,R454B,R32/R1234yf(0.5/0.5),R454C,R1234yfの順に高く,それぞれ 658,624,537,270,228 kW/m² でした。
R32比率の効果R32/R1234yf混合冷媒では,R32の質量分率が高いほど熱伝達性能が高くなりました。R454Cでは温度すべりと濃度差が大きく,物質移動抵抗によりHTCの向上が限定されました。
MM-FLP表面の効果MM-FLP複合構造表面はMSと比較して冷媒のCHFとHTCをさらに向上させました。最良表面はW4L4H4-P5S30T20でした。
最大向上率MSと比較して,W4L4H4-P5S30T20上のCHFはR454Bで 9.5%,R32で 8.8% 向上しました。最大HTCはR454Bで 105.7%,R32で 390.8% 向上しました。
R454Bの高性能化R32のスムース表面と比較して,MM-FLP表面上のR454BはCHFが最大 91.34%,最大HTCが最大 2.07倍 向上しました。
酸化エッチングの不利な影響MM-FLPと比較して,MM-FLP-OEおよびMM-FLP-OE-LSEではCHFとHTCが低下しました。R454BのCHFはそれぞれ 7.07%16.71% 低下しました。
全複合表面の優位性MM-FLP-OEやMM-FLP-OE-LSEはMM-FLPより劣るものの,スムース表面と比較すると,本研究で用いたすべての複合構造表面は冷媒の沸騰熱伝達を向上させました。

今後の展望

本研究は,非共沸冷媒の核沸騰熱伝達に対して,ミクロ・ナノ複合構造表面が有効である一方,水で有効とされるナノワイヤ構造や低表面エネルギー処理が冷媒では必ずしも有効でないことを示しました。

今後は,異なる低GWP非共沸冷媒,実際の流動沸騰条件,長期耐久性,表面汚染,冷媒と表面構造の濡れ性・毛細管作用の最適化,電子機器冷却システムへの実装評価が重要です。

想定される適用分野

本研究の成果は,低GWP冷媒を用いる高熱流束冷却システムの表面設計に応用できます。

電子機器熱管理高熱流束冷却低GWP冷媒システムヒートポンプ・冷凍システム二相冷却デバイス沸騰伝熱促進表面

まとめ

本研究では,非共沸冷媒の核沸騰熱伝達をスムース表面およびミクロ・ナノ複合構造表面で実験的に評価しました。

MM-FLP複合構造表面は,核生成サイト密度,毛細管ポンピング,気泡離脱,熱境界層撹乱を改善し,CHFとHTCを大きく向上させました。一方,酸化エッチングや低表面エネルギー処理は,冷媒では液体供給を妨げる場合があるため注意が必要です。

結論: 非共沸冷媒の沸騰伝熱促進には,微細柱とフェムト秒レーザー加工によるMM-FLP複合構造表面が有効であり,冷媒の物性と気泡挙動に合わせた表面構造設計が重要です。

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