冷凍システムにおける水平管外面の落下液膜蒸発熱伝達

低GWP混合冷媒,油分,供給密度,熱流束,表面ぬれ性がHTCとCHFに及ぼす影響

論文タイトル:Experimental study on falling film evaporation heat transfer outside a horizontal tube in refrigeration system
著者:Qifan Wang, Dandan Su, Liang Yao, Minxia Li, Chaobin Dang, Jing Li, Xuetao Liu, Libo Yan, Jie Peng
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 241 (2024) 122216
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2023.122216

研究概要

本研究では,低GWP混合冷媒を対象として,冷凍システム内の水平管外面における落下液膜蒸発熱伝達を実験的に評価しました。R134a,R32,R32/R134a,R32/R1234ze(E)を用い,油分,供給密度,熱流束,蒸発温度,および表面ぬれ性が熱伝達係数(HTC)と限界熱流束(CHF)に及ぼす影響を明らかにしました。

論文内容の1ページ図解

冷凍システムにおける水平管外面の落下液膜蒸発熱伝達を示すGraphical Abstract

図:低GWP混合冷媒を用いた冷凍システム,水平管外面での落下液膜蒸発,油分,供給密度,熱流束,蒸発温度,表面ぬれ性,HTCおよびCHFへの影響をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

高GWP冷媒の使用制限が進む中,環境負荷の小さい低GWP冷媒および低GWP混合冷媒の利用が重要になっています。同時に,冷媒充填量の削減も冷凍・ヒートポンプシステムの環境負荷低減に直結します。

落下液膜蒸発は,冷媒を水平管外面に薄い液膜として供給し,管内流体と熱交換させる技術です。従来の満液式蒸発器に比べて冷媒充填量を削減でき,低い過熱度で高い熱伝達係数が期待できます。

しかし,実際の冷凍システムでは圧縮機から潤滑油が冷媒とともに循環し,さらに混合冷媒では成分の蒸発速度差により濃度勾配と物質移動抵抗が生じます。本研究は,低GWP混合冷媒の落下液膜蒸発において,油分,供給密度,熱流束,蒸発温度,表面ぬれ性が熱伝達に及ぼす影響を明らかにすることを目的としています。

本研究の特徴

  • 実冷凍システムでの評価: ポンプ駆動の単純実験ではなく,圧縮機・凝縮器・膨張弁・蒸発器を含む冷凍サイクル中で落下液膜蒸発を評価した。
  • 低GWP混合冷媒への応用: R32/R1234ze(E)およびR32/R134aを対象とし,低GWP混合冷媒の適用可能性を調べた。
  • 油分の影響を考慮: POE油を含む実機に近い条件で,油分がHTCとCHFに及ぼす影響を評価した。
  • 表面ぬれ性の比較: 酸化エッチングによりぬれ性の異なる水平管を作製し,液膜広がりと乾き域発生への影響を評価した。
  • 多因子の体系的評価: 油分,供給密度,熱流束,蒸発温度,表面ぬれ性を同時に扱い,FFE設計に必要な基礎データを提供した。

提案手法と作動メカニズム

1. 水平単管落下液膜蒸発実験

冷凍サイクル内に水平単管落下液膜蒸発器を設置し,液分配器から冷媒を水平管外面へ噴霧供給しました。管内には冷水を流し,管外の冷媒液膜が蒸発しながら熱を吸収します。

2. 冷媒・油分・運転条件

R134a,R32,R32/R134a(0.5/0.5),R32/R1234ze(E)(0.5/0.5)を用い,油分は1.82~6.32%,供給密度は0.0049~0.0194 kg/(m·s),熱流束は10~45 kW/m²,蒸発温度は3~9 ℃としました。

3. 表面ぬれ性の制御

酸化エッチングにより,水接触角25.4±1.0°および5°未満のぬれ性向上管を作製し,平滑管と比較しました。ぬれ性向上により液膜の軸方向広がりと毛細管補給が促進されます。

4. HTCとCHFの評価

冷水側熱収支と熱抵抗分離法により冷媒側HTCを算出し,乾き域の発生やCHFの変化を,油分,供給密度,熱流束,表面ぬれ性と対応づけて評価しました。

主な結果

油分の影響油分が低い場合,油分増加はHTCに弱い影響しか与えず,わずかな増加または低下を示しました。一方,油分が 3.12% を超えるとHTCは大きく低下し,最大低下率は約 50% でした。
熱流束の影響熱流束が増加すると,油による伝熱劣化の影響がより顕著になりました。これは高熱流束で蒸発が進み,管表面付近の局所油濃度が高くなるためです。
CHFへの影響油分の増加はCHFの出現を遅らせる効果がありました。これは油が液膜の濡れ広がりを助け,表面の乾き域形成を抑制するためです。
冷媒間の比較R32/R134aのHTCはR32/R1234ze(E)の約 1~1.25倍,R32のHTCはR134aの約 1.4~1.7倍,R134aのHTCはR32/R134aの約 1~1.1倍 でした。
混合冷媒の物質移動抵抗R32/R134aはR134aよりHTCが低く,高熱流束ほど差が拡大しました。これはR32が先に蒸発することで濃度勾配が生じ,物質移動抵抗が増加するためです。
表面ぬれ性の効果酸化エッチング管は平滑管と比べてHTCを約 25% 向上させました。ただし,過度なぬれ性向上は薄すぎる液膜と乾き域の早期発生を招き,CHFを早める場合があります。
供給密度の効果供給密度Γを増加させると,液膜補給が改善され,CHFが増加し,CHFの発生が遅延しました。

今後の展望

本研究は,低GWP混合冷媒を落下液膜蒸発冷凍システムへ適用するための重要な実験データを提供しました。特に,油分,混合冷媒の物質移動抵抗,液膜供給密度,表面ぬれ性が相互に影響し,HTCとCHFを支配することを示しました。

今後は,実機蒸発器へのスケールアップ,複数管・管束での液膜分配,長期運転時の油蓄積,低GWP冷媒候補の追加検証,および表面ぬれ性と供給密度の最適化が重要になります。

想定される適用分野

本研究の成果は,低GWP混合冷媒を用いる高効率冷凍・ヒートポンプシステムに応用できます。

冷凍・冷蔵システムヒートポンプ蒸発器低GWP冷媒システム落下液膜蒸発器表面改質熱交換器冷媒充填量削減技術

まとめ

本研究では,冷凍システム中の水平管外面落下液膜蒸発を対象に,低GWP混合冷媒,油分,供給密度,熱流束,蒸発温度,表面ぬれ性の影響を実験的に評価しました。

油分が高い場合はHTCが大きく低下しますが,油分と供給密度はCHFを遅延させる効果も持ちます。また,酸化エッチングによるぬれ性向上はHTCを改善しますが,過度なぬれ性は乾き域を早期に発生させる可能性があります。

結論: 低GWP混合冷媒の落下液膜蒸発では,油分,熱流束,混合冷媒の物質移動抵抗,供給密度,表面ぬれ性をバランスよく制御することで,HTC向上とCHF遅延を両立できる可能性があります。

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