微量空気含有率が異なる立方体氷の自然対流融解特性

相変化蓄熱技術の最適化に向けた氷中空気泡による融解過程制御

論文タイトル:Experimental study on the melting characteristics modulation of cubic ice cubes with different trace air contents under natural convection condition
著者:Yonghui Liang, Mengjie Song, Jun Shen, Chaobin Dang, Carlos Di Prinzio, Xuan Zhang
掲載誌:Journal of Energy Storage, 102 (2024) 114186
DOI:10.1016/j.est.2024.114186

研究概要

本研究では,自然対流条件下における立方体氷の融解過程を対象として,氷中に含まれる微量空気が融解時間,融解速度,形状変化,および融解段階に及ぼす影響を実験的・理論的に評価しました。氷質量を20~50 g,空気含有率を0~3.9 vol.%の範囲で変化させ,透明氷と気泡氷の融解挙動を比較しました。また,立方体氷の自然対流融解モデルを構築し,全融解時間を±20%以内の誤差で予測できることを示しました。

論文内容の1ページ図解

微量空気含有率が立方体氷の自然対流融解特性に及ぼす影響を示すGraphical Abstract

図:相変化蓄熱材料としての氷,透明氷と気泡氷,自然対流融解実験,融解モデル,IMS・FSS・PSSの3段階,空気含有率による融解時間制御,および相変化蓄熱技術への応用をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

氷は低コスト,高潜熱,環境調和性を有する代表的な相変化材料であり,建築蓄熱,コールドチェーン輸送,冷凍システム,電力ピークシフトなどに応用されています。

一方で,相変化材料は熱伝達性能が低いことが多く,蓄熱・放熱速度の制御が課題となります。金属材料や多孔質材料を添加する方法は有効ですが,材料調製が複雑になる場合があります。

本研究の目的は,氷中に微量の空気を含ませるという簡便な方法により,立方体氷の自然対流融解過程を制御できるかを明らかにし,相変化蓄熱システムの設計・最適化に役立つ基礎知見を提供することです。

本研究の特徴

  • 氷を相変化材料として評価: 低コストで環境負荷の小さい氷の融解過程を基礎的に解析した。
  • 微量空気含有率に着目: 空気含有率0,0.7,1.8,3.9 vol.%の立方体氷を比較した。
  • 自然対流条件で実験: 断熱台上に氷を置き,静止空気中で融解する実際的な条件を再現した。
  • 3段階融解過程を定義: 初期融解段階(IMS),角錐台形状段階(FSS),角錐形状段階(PSS)に分類した。
  • 融解モデルを構築: 表面積変化と気泡による有効伝熱面積増加を考慮した自然対流融解モデルを提案した。

提案手法と作動メカニズム

1. 透明氷と気泡氷の作製

水を凍結させる過程で位置の異なる氷を切り出し,空気含有率の異なる立方体氷を準備しました。透明氷は空気含有率がほぼ0%,気泡氷は0.7~3.9 vol.%の空気を含みます。

2. 自然対流融解実験

立方体氷を断熱綿上に置き,恒温環境チャンバー内で自然対流により融解させました。カメラで上面・側面から形状変化を記録し,電子天秤で質量変化を測定しました。

3. 融解段階の分類

融解速度が最大値に達する時点と,氷の形状が角錐状へ移行する時点を基準として,融解過程をIMS,FSS,PSSの3段階に分類しました。

4. 自然対流融解モデル

氷と空気の自然対流熱伝達,融解潜熱,氷形状の変化,および気泡による有効伝熱面積係数を考慮し,融解時間と融解速度を予測するモデルを構築しました。

主な結果

3段階の融解過程立方体氷の融解過程は,IMS,FSS,PSSの3段階に分けられます。IMSでは角部が急速に融けて融解速度が上昇し,FSSでは角錐台状に変形しながら融解速度が低下し,PSSでは角錐状で最終融解します。
透明氷の質量効果空気含有率がほぼ0%の透明氷では,質量が20 gから50 gに増加すると全融解時間は 160 min から 255 min に増加し,約 59.4% 長くなりました。
FSS時間割合の増加透明氷の質量が20 gから50 gに増加すると,FSSの時間割合は 59.4% から 66.7% に増加しました。
空気含有率による融解制御40 g氷では,空気含有率0%,0.7%,1.8%,3.9%の全融解時間はそれぞれ 210,200,190,165 min でした。空気含有率が高いほど全融解時間は短くなりました。
IMS時間割合の変化空気含有率3.9%の気泡氷では,透明氷と比較してIMSの時間割合が 7.1% から 21.2% に増加しました。
PSS時間割合はほぼ一定PSSの時間割合は空気含有率や質量に大きく依存せず,おおよそ 27% で安定しました。
融解モデルの精度構築した自然対流融解モデルは,全融解時間と融解速度を ±20% 以内の誤差で予測できました。モデル計算では,空気含有率を1%から10%に増加させると融解時間が 30.1% 低下しました。

今後の展望

本研究は,氷中の微量空気を利用して自然対流下の融解過程を制御できることを示しました。特に,気泡によって表面の凹凸や有効伝熱面積が増加し,後期の融解を促進できる点は,相変化蓄熱材料の設計に有用です。

今後は,氷以外の相変化材料への展開,気泡径・分布の制御,容器内融解や強制対流条件での検証,実際の蓄熱槽・冷熱輸送システムへの応用評価が重要になります。

想定される適用分野

本研究の成果は,氷および相変化材料を用いた蓄熱・冷熱利用システムの設計に応用できます。

相変化蓄熱建物用蓄熱コールドチェーン物流冷凍・冷蔵システム電力ピークシフトPCMシステム最適化

まとめ

本研究では,異なる微量空気含有率を持つ立方体氷の自然対流融解実験を行い,融解過程をIMS,FSS,PSSの3段階に分類しました。

空気含有率の増加は初期には融解を遅らせる一方,融解の進行に伴って表面凹凸と有効伝熱面積を増加させ,全融解時間を短縮します。

結論: 微量空気泡は,自然対流下における立方体氷の融解過程を簡便かつ効果的に制御でき,相変化蓄熱技術の設計・最適化に有用な手段となります。

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