潤滑油がCO2核沸騰プール沸騰伝熱特性に及ぼす影響

CO2/POE混合物における気泡動力学と熱伝達促進・劣化メカニズム

論文タイトル:Experimental investigation on the influence of lubricant oil on CO2 nucleate pool boiling heat transfer characteristics
著者:Yongfang Huang, Xiaoxiao Xu, MingWen Luo, Chaobin Dang
掲載誌:Applied Thermal Engineering, 260 (2025) 124975
DOI:10.1016/j.applthermaleng.2024.124975

研究概要

本研究では,自然冷媒CO2の核沸騰プール沸騰伝熱に対して,POE潤滑油の添加が気泡挙動および熱伝達特性に及ぼす影響を実験的に評価しました。蒸発温度,熱流束,油濃度を変化させ,純CO2およびCO2/POE混合物の沸騰曲線,熱伝達係数,気泡画像を測定しました。その結果,少量の油は低蒸発温度で核生成を促進し熱伝達を向上させる一方,高蒸発温度または高油濃度では界面での油濃縮層と小気泡群により熱伝達劣化を引き起こすことが示されました。

論文内容の1ページ図解

潤滑油がCO2核沸騰プール沸騰伝熱に及ぼす影響を示すGraphical Abstract

図:CO2/POE混合物の核沸騰実験装置,純CO2の沸騰挙動,油添加による気泡密度・気泡径変化,油濃縮層形成,熱伝達向上・劣化の条件をまとめたGraphical Abstract。

研究の背景と目的

CO2は自然冷媒として環境負荷が小さく,優れた熱伝達特性と二相流動特性を持つため,自動車空調,商業用ヒートポンプ,冷凍・冷蔵システムなどで注目されています。特にCO2流動沸騰では核沸騰が支配的な伝熱機構の一つであるため,CO2核沸騰の基礎的理解は熱交換器設計に重要です。

実際の冷凍サイクルでは,圧縮機の潤滑・密封のために潤滑油が不可避的に冷媒循環系へ混入します。潤滑油は冷媒より高い粘度と表面張力を持ち,気泡発生,気泡離脱,気泡合体,界面物質移動,壁面過熱度を変化させます。

本研究の目的は,CO2/POE混合物の核沸騰プール沸騰において,蒸発温度,熱流束,油濃度が熱伝達係数と気泡動力学に及ぼす影響を明らかにし,CO2系熱交換器設計の基礎知見を提供することです。

本研究の特徴

  • 自然冷媒CO2に着目: 自動車空調や商業用ヒートポンプで重要なCO2沸騰伝熱を対象とした。
  • 核沸騰プール沸騰を直接測定: CO2流動沸騰の支配機構である核沸騰に注目した基礎実験を行った。
  • 潤滑油POEの影響を評価: 油濃度0.5%,2.6%,3.7%のCO2/POE混合物を測定した。
  • 気泡画像を同時取得: 高速度カメラにより気泡密度,気泡径,気泡群形成を可視化した。
  • 向上と劣化の両方を整理: 少量油による核生成促進と,高濃度油による界面抵抗・液供給阻害を区別して議論した。

提案手法と作動メカニズム

1. CO2核沸騰実験

石英ガラス製の沸騰チャンバー,銅加熱ロッド,凝縮器,恒温槽,圧力センサー,PT100温度計,T型熱電対を用いて,CO2およびCO2/POE混合物の核沸騰プール沸騰を測定しました。

2. 実験条件

蒸発温度は0 ℃,5 ℃,10 ℃,熱流束は最大160 kW/m²程度まで変化させました。POE潤滑油濃度は0.5%,2.6%,3.7%とし,純CO2との比較を行いました。

3. 熱伝達係数の算出

銅ロッド内部の温度分布からフーリエ則により熱流束を求め,沸騰面温度と液温との差から熱伝達係数を算出しました。

4. 気泡挙動の可視化

高速度カメラを用いて沸騰中の気泡画像を取得し,油添加による気泡密度,気泡径,気泡合体,小気泡群形成の変化を熱伝達特性と対応づけました。

主な結果

純CO2の熱伝達特性純CO2では,熱流束の増加により気泡密度と気泡径が増加し,核沸騰熱伝達係数が向上しました。
蒸発温度の影響蒸発温度が上昇するとバルク液中の拡散気泡径は小さくなり,気泡運動による対流熱伝達が弱まるため,純CO2のHTCは蒸発温度に対して大きく変化しませんでした。
低油濃度での伝熱促進蒸発温度0 ℃,油濃度 0.5% では,CO2/POE混合物の熱伝達係数は純CO2より平均 25% 向上しました。
油添加による気泡挙動変化油添加により気泡密度は増加し,気泡径は急速に低下しました。これは核生成サイト密度の増加と気泡離脱径の減少によるものです。
高温・高油濃度での劣化高蒸発温度または油濃度が1%を超える条件では,油が気液界面に濃縮し,小気泡群を形成することで液体供給を妨げ,壁面過熱度上昇と熱伝達劣化を引き起こしました。
高油濃度での大幅な低下油濃度3.7%,熱流束100 kW/m²では,蒸発温度0~10 ℃において熱伝達係数は純CO2より 46~58% 低下しました。

今後の展望

本研究は,CO2冷凍・ヒートポンプシステムにおいて,潤滑油が単純に伝熱を悪化させるだけでなく,条件によっては核生成を促進し伝熱を向上させることを示しました。

今後は,流動沸騰条件での検証,異なる潤滑油種類,油戻り・油分布制御,界面油濃縮層の詳細測定,CO2熱交換器内での局所油濃度予測,および実機蒸発器設計への展開が重要です。

想定される適用分野

本研究の成果は,CO2を用いる冷凍・空調・ヒートポンプ用熱交換器の設計に応用できます。

自動車空調CO2ヒートポンプ商業用冷凍システムCO2蒸発器設計自然冷媒システム熱交換器最適化

まとめ

本研究では,純CO2およびCO2/POE混合物の核沸騰プール沸騰実験を行い,油濃度と蒸発温度が気泡挙動と熱伝達係数に及ぼす影響を明らかにしました。

少量油は低蒸発温度で核生成を促進して伝熱を向上させますが,高蒸発温度または高油濃度では油濃縮層と小気泡群により熱伝達が劣化します。

結論: CO2核沸騰における潤滑油の影響は油濃度と蒸発温度に強く依存し,0 ℃・0.5%程度の低油濃度では伝熱促進が得られる一方,高温または高油濃度では気液界面の油濃縮により熱伝達劣化が生じます。

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